循環器内科常勤医のいない病院で,心不全を復習中です.非常勤の先生が,循環器内科医とは思えないくらい優しいので,大変お世話になっていますが,自分でも勉強です.
目次
この本について
心不全診療ついて本気出して考えてみた
山下武志・加藤祐子 著
南山堂
この本で学びたかったこと
・どのように心機能を評価するか
・どのように心拍数をコントロールするか
・血管トーヌスとは何か
・血管トーヌスの評価をどのように心不全治療に用いるか
・体液量をどのように評価し管理するか
・呼吸障害にどのように対処するか
・自律神経のおよぼす心機能への影響はどの程度か
・自律神経のおよぼす心機能への影響をどのように管理するか
・利尿薬をどのように使い分けるか
・利尿薬をどのような思考プロセスで使用するか
挙げてみると,いろいろ知りたいことあるな・・・という印象です.実際,大学病院では糖尿病ばかり診ていて,心臓に困ったら循環器の先生に直電していたので,放置していた疑問・質問が顕在化しました.
この本から得た答え
心臓を評価する
心筋,心機能の評価にエコー,シンチグラフィーを用いますが,万能な評価法は無いというのが答えです.LVEFやE/e’を見ても,実測値との乖離は免れません.そういうもんだと思って数値を見る心構えが重要です.
心拍数,血圧,体液量といった指標とあわせて総合的に,どういう状態の心不全なのか把握することになります.
血管トーヌスに介入する
central volume shiftという現象を,どこかの病態生理の講義で聴いたような気はしますが,すっかり忘れておりました.本書ではこのcentral volume shiftという概念を踏まえて,血管のトーヌス(緊張)に介入する意義を説明されます.
central volume shiftによる心負荷を,胸写の肺動脈径,血管陰影の明瞭化で評価する方法は参考になります.そして,思っている以上に運動療法,心臓リハも血管トーヌス改善に重要です.
体液量の評価と管理
体液量を体重増加,浮腫,胸水,CV径などで評価し,利尿薬でコントロールする,という理解でいましたが体液量の評価法にも万能の方法のは無いようです.総合判断から,フロセミド,ハンプなどを上手に使う.経過を見ながらの体液管理になり,安易なアルゴリズムはないようです.
正攻法が1つでない,こういう治療・管理に医師の知識と経験が反映され,とりわけ非専門医の場合,研修医時代のオーベンの治療法が色濃く現れます.研修医のときに,いかにちゃんとした指導を受けるかが大事ですね.
その他
睡眠時無呼吸症候群への介入や,ICD等のデバイス,自律神経系への介入,チーム医療の意義など,心不全治療に関わる色々な話題が取り上げられ,非循環器内科医として勉強になります.
まとめ・感想
本書では,心不全の概念を,「心臓の安静」と「臓器灌流の維持」のバランスでとらえ,対立する両者をどう評価し,どちら側にフォーカスして治療介入するか解説されています.この概念を頭に浮かべると,心不全の病態がつかみやすくなり,急性期から慢性期までの治療の意味付けがあらためてクリアになります.
心不全治療というと,オーベン譲りのノウハウに,テキストとガイドラインで理論武装して緊張して臨んでいたものが,すこし肩の力を抜いて,治療の方向性を俯瞰できるようになる一冊でした.