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「マッキンゼープライシング」から学ぶ,顧客を選ぶ価格戦略|病院も患者を選ぶ時代が来るのか

このところ価格設定の勉強中です.妻のハンドメイドアクセサリーの価格設定の勉強にもなっています.ついでに,医療現場の課題にも考えを巡らせました.

目次

この本について

マッキンゼープライシング
体系的・科学的「価格創造」で価値を利益に転換する
山梨広一・菅原章 編著・監訳/村井章子 訳
ダイヤモンド社

この本で知りたかったこと

・サービスの価値を決める要素・方法は何か
・新製品,新サービスのプライシング・プロセスは具体的にどのようなものか
・プライシングはどのように実行され,どうモニターされるか

この本から得たこたえ

プライシング戦略としてのバリュー・マネジメント

競合する製品・サービスがある中で,自社製品の価格を設定し,変更し,いかにシェアを増やすか,という戦略が本書の第2章で述べられています.本書では「バリュー・マネジメント」と呼ばれていますが,要は,顧客がそのサービスから受ける便益の程度(顧客認知便益)が,顧客が払っても良いと思う金額(顧客認知価格)を上回っているか,下回っているかで次の値上げor値下げの戦略を決めて,シェア拡大を図るということです.

ただ難しいのは,顧客認知便益は顧客によって重視・評価するポイントが異なるので,自社製品・サービスの強みを伸ばして,価格を上げるのか,価格は変えずに,多くの顧客が重視するポイントに自社の強みをシフトするのか,あるいは価格,強みの両方を変動させるのか,絶妙な舵取りが求められます.その際,正確な顧客のニーズの理解と,他社製品・サービスとの入念な比較が極めて重要です.

さらに,景気循環,顧客のニーズの変化,他社の価格戦略といった様々なパラメータが変動する中で,自社製品をプライシングしていかなくてならないので,価格戦略は非常にエネルギーを要する経営要素といえるでしょう.

新製品の価格設定がマーケットを決める

本書では価格設定の際,従来の原価からの上乗せ方式ではなく,商品・サービスの「潜在価値の最大化」を謳っています.価格範囲の上限,下限を設定して,消費者がいくらなら払ってくれるか,価格設定から,どの客層を狙ってに売り込んでいくか戦略も可能になります.

価格の上限の設定では「一瞬でキャッシュを生む!価格戦略プロジェクト」でも紹介されているような,具体的にいくらなら買ってくれるか,消費者にアンケート調査を行うことが有用とされます.いっぽう価格の下限設定には,一般的なコストプラス方式で,原価にマージンをプラスした最低限の儲けを得られる価格設定で良いとされます.

興味深いのは,上限と下限を設定したとしても,中途半端な価格設定ではシェアを取り漏らすとのことです.高価格帯でも買ってくれるクオリティ重視の客層か,低価格帯でコスパ重視の客層のシェアを拡大するか,自社製品の強みを見極めて,マーケットを狙っていくべきというわけです.

価格設定には明確な目的と決意が必要

プライシング実行のボトルネックとして「実行への決定意志の躊躇」,「実行徹底の甘さ」,「他の施策(戦略)との不適合」が挙げられています.プライシングは経営上,大きな影響をもつ要素なので,明確な決意と目的を臨み,営業・販売の現場までその決意と目的を浸透させて,現場判断で安易な安売り戦略に転換されないように気をつける必要があります.現場が迷わないためにも,他の企業戦略と一貫性を持って価格戦略を行なうことが重要です.

糖尿病内科的コメントと感想

初見では,バリューマップというよくわからないグラフが出てきて「何のことやら?」と思っていましたが,丁寧に読み進めていくと,価格戦略の奥深さが滲み出てきました.

日本の医療はカスタマー・バリューの高いサービス

日本の医療について考えると,健康保険制度のおかげで,医療の質という点では患者さんの期待に応える(おそらく十分応えている)内容が,患者さんが払ってもいいと思う金額以下で提供されていると思います.「こんなに金払ってるから,もっとちゃんと診てほしい!」という声はあまり聞きません.とてもカスタマー・バリューの高いサービスです.

よく聞かれるのは「これだけ待ったのに,たった3分の診療?!」,「こんなに薬飲んでるのに,血糖値が良くならない!」といった,待ち時間や期待する効果と,提供される医療とのギャップから生じる不満です.病院以外の一般的なサービスであれば,待ち時間を減らして回転率を上げる飲食店や,顧客の期待する“結果にコミットする”食生活や運動をマネジメントしてくれるスポーツジムが,戦略的に業績を伸ばすはずなのですが,医療界ではそういうことが起こりません.

患者のニーズに合わせた病院選びができたらいい

3分診療でいいから待ち時間の短い病院,あるいは待ち時間は長いけれど,1人15分ずつ話を聞いて,話し合いながら治療を決める病院,というように患者さんのニーズに合わせた病院選択ができるようになればいいと思っています.

外来の場合,患者数,処置内容で病院の収益はだいたい決まるため,経営者側は外来の収益を上げるために医師数を増やさず(人件費を増やさず),診療件数を増やそうするので待ち時間が長くなり,診療時間は短くなる一方です.

電子カルテに患者の入室時刻と退室時刻が記録され,診療時間に応じて加算が生まれるような仕組みができてもいいと思います.病院ごとに強みを発揮し,特定の患者層を狙ったマーケティングをする時代の到来に期待します.

プロフィール

やさしい糖尿病内科医
山村 聡(やまむら そう)

九州生まれ、九州育ち、九州大学医学部卒。大学病院で糖尿病・代謝・内分泌内科助教、市中病院勤務後退局。フリーランスを経て、銀座有楽町内科院長。

病気を治療する医師であると同時に、生涯の健康を保つパートナーでありたいと思っています。

趣味はお酒と血糖値。診察室で患者さんと喋ることも好きですが、気のおけない友人とお酒を飲むことも大好きです。自分の幸せも大切にしながら,社会が豊かになることに貢献できたら最高です.

いつも最後まで読んでいただきありがとうございます.

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