健康診断で血糖値が高いと言われた方,そのご家族に向けて,血糖値,インスリン,糖尿病について糖尿病内科医が簡単に説明します.
目次
血糖値とインスリンの関係
血糖値はエネルギー源の量
血糖値とは,血液中のグルコースの濃度をいいます.食事で摂取した炭水化物が消化され,血液の中に取り込まれてグルコースの状態で全身にエネルギー源として供給されます.このグルコース=エネルギー源の濃度が血糖値です.
エネルギー源を使わせるホルモンがインスリン
グルコース1gにエネルギー4kcalが宿っています.ただ,血液の中にグルコースが巡るだけではエネルギーとして使うことが出来ません.全身の細胞に,エネルギー源のグルコースを使わせる必要があります.このエネルギー源を使えるように作用するホルモンがインスリンです.
血液中のグルコースと,インスリンが一緒に存在して初めて,身体はエネルギーを使って活動できるようになります.
グルコースとインスリンのバランスで血糖値が保たれる
食事によって血糖値が上がると,膵臓からインスリンが分泌されます.インスリンの作用でグルコースが全身の細胞に取り込まれると,血糖値が下がり,インスリンの分泌も減ります.
血糖値とインスリンの絶妙なバランスによって,人間の血糖値はほどよい値に保たれています.(血糖が下がりすぎると,血糖値を上げるホルモンが分泌され,肝臓や筋肉に蓄積されたグリコーゲンを分解してグルコースが供給されます.)
糖尿病という状態
血糖値とインスリンのバランスが崩れた状態=糖尿病
血糖値が正常範囲よりもずっと高い値が続いてしまうのが糖尿病です.グルコースとインスリンのバランスがどのように崩れると血糖値が高い状態が続くのか,2つのパターンがあります.
グルコース供給過剰パターン
第1のパターンは食べ過ぎ,飲み過ぎによって必要以上にグルコースが供給されすぎて,全身で使い切れない状態です.膵臓がインスリンをどんなに分泌しても,たくさんの食事によって供給された過剰なグルコースは使い切れずに尿として排出されます.文字通り「糖尿」病です.
インスリン分泌低下パターン
第2のパターンは,食事からのグルコースの量は適量であるにも関わらす,膵臓からのインスリン分泌が少ない状態です.加齢によって,膵臓も年を取り,インスリンの分泌が減ってくると,食事量が従来と変わらないにもかかわらず,グルコースがすばやく利用されず,血糖値が高くなってしまいます.
このパターンには加齢以外に「1型糖尿病」と呼ばれる病気があります.本来,自分の体を守るために働く免疫系の細胞が,間違って自分の膵臓を攻撃して壊してしまい,インスリンが分泌できなくなる病気です.
ほかにも癌や膵臓の腫瘍が原因となってインスリンの分泌が低下している可能性もあります.
糖尿病の診断
ヘモグロビン・エーワンシーは血糖値の平均点
血糖値以外に糖尿病を評価する指標にHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)があります.血糖値は食事によって毎日・毎食変動しますが,HbA1cは1〜2ヶ月間の血糖値を反映した値です.
学校の成績で例えると,血糖値は毎回のテストの点数で,HbA1cは通知表の評価です.テストの点数は中間テスト,期末テスト,週テスト,小テスト…その都度いろいろ点数が出ますが,それらの点数を踏まえて,学期末に通知表で「3」とか「5」とか評価されます.
毎日の血糖値の変化を1〜2ヶ月分まとめてHbA1cで評価します.
糖尿病の診断基準
糖尿病の診断で一般的な基準は,空腹時血糖値126mg/dL以上かつHbA1c 6.5%以上です.血糖値とHbA1cの両方の基準を満たしたとき,医師が糖尿病と診断します.
糖尿病予備群とは
糖尿病予備群,境界型糖尿病という,正常でも糖尿病でもない状態があります.医学的には「耐糖能異常」,「空腹時血糖異常」といいます.
正確には75g経口ブドウ糖負荷試験という検査が必要ですが,上記の診断基準は満たさないけれど血糖値,HbA1cが正常でも,糖尿病でもない値である場合を糖尿病予備群と呼んでいます.
いずれにせよ,血糖値とインスリンのバランスが崩れている状態であり,身体の中で起きている状態は糖尿病とさほど変わりません.
健康診断で血糖値が高いと言われたら
自分の血糖値の状態は血液検査以外で計り知ることはできません.健康診断で血糖値が高いといわれたくらいの時期には,自覚症状はほとんどありません.
まずは内科の病院を受診して,血液検査を受けましょう.正常なのか,糖尿病なのか,予備群なのか,はっきりさせて,治療(まずは食事療法)をスタートすることをオススメします.