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サブクリニル・クッシング症候群の診断基準[糖尿病内科医のメモ]|学会発表を機に再確認

日本内分泌学会 関東甲信越支部学術集会での発表の際に,サブクリニカル・クッシング症候群の診断基準をあらためて確認しました.現在用いられる診断基準は1996年に公表された,厚生省特定疾患内分泌系疾患調査研究班「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会 平成7年度研究報告書によるこちらの基準です.

【副腎性プレクリニカル・クッシング症候群の診断基準】

1.副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
2.臨床症状:クッシング症候群の特徴的な身体徴候の欠如(注1)
3.検査所見
1)血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内(注2)
2)コルチゾール分泌の自律性(注3)
3)ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌の抑制(注4)
4)副腎シンチグラフィーでの患側の取り込みと健側の抑制
5)日内リズムの消失
6)血中DHEA-S値の低値(注5)
7)副腎腫瘍摘出後,一過性の副腎不全症状があった場合,あるいは付着皮質組織の萎縮を認めた場合

検査所見の判定:1)2)は必須,さらに3)-6)のうち1つ以上の所見,あるいは7)がある時,陽性と判定する.

1,2および3の検査結果陽性をもって本症と診断する.

注1:高血圧,全身性肥満,耐糖能異常はクッシング症候群に特徴的所見とは見なさない.
注2:2回以上の測定が望ましく,常に高値の例は本症と見なさない.
注3:オーバーナイト・デキサメサゾン抑制試験の場合、スクリーニングに1 mgの抑制試験を行い,血中コルチゾール値3 μg/dL以上の時,本疾患の可能性が考えられる.ついで8 mgの抑制試験を行いその時の血中コルチゾール値が1 μg/dL以上の時,本疾患を考える.
注4:ACTH基礎値が正常以下(<10 pg/mL)あるいはACTH分泌刺激試験の低反応.
注5:年齢および性別を考慮した基準値以下の場合、低値と判断する。

この診断基準が日本でのサブクリニカル・クッシング症候群の診断に用いられています.さらに症例やデータが蓄積されていき,2012年に日本内分泌学会から臨床重要課題として「潜在性クッシング症候群(下垂体性と副腎)の診断基準の作成」が掲げられ,「副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)新診断基準案」が提示されました.

【副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)新診断基準案】

1.副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
2.臨床症状:クッシング症候群の特徴的な身体徴候の欠如(注1)
3.検査所見
1)血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内(注2)
2)コルチゾール分泌の自律性(注3,注4,注5)
3)ACTH分泌の抑制(注6)
4)日内リズムの消失(注7)
5)副腎シンチグラフィーでの健側の抑制と患側の集積(注8)
6)血中DHEA-S値の低値(注9)
7)副腎腫瘍摘出後,一過性の副腎不全症状があった場合,あるいは付着皮質組織の萎縮を認めた場合(注10)

診断
1,2 および3-1)は必須で,さらに下記の(1)(2)(3)の何れかの基準を満たす場合に確定診断とする.

(1) 3-2)の1mg DST後の血中コルチゾール値が5 μg/dL以上の場合
(2) 3-2)の1mg DST後の血中コルチゾール値が3 μg/dL以上で,かつ3の3)〜6)の1つ以上を認めた場合,もしくは7)を認めた場合
(3) 3-2)の1mg DST後の血中コルチゾール値が1.8 μg/dL以上で,かつ3の3)4)を認めた場合,もしくは7)を認めた場合

注1:身体徴候としての高血圧,全身性肥満や病態としての耐糖能異常,骨密度低下,脂質異常症はCushing症候群に特徴的所見とは見なさない.
注2:安静,絶食の条件下で早朝に,2回以上の測定が望ましく,常に高値の例は本症と見なさない.正常値については,各測定キットの設定に従う.
注3:overnight 1 mgデキサメサゾン抑制試験(DST)を施行する,スクリーニング検査を含め,1 mg DST後の血中コルチゾール値が1.8 μg/dL以上の場合,非健常と考えられ,何らかの臨床的意義を有する機能的副腎腫瘍あるいは非機能性副腎腫瘍の可能性を考慮する.
注4:確定診断のための高用量(4-8 mg)DSTは必ずしも必要としないが,病型診断のために必要な場合にはおこなう.
注5:低濃度域の血中コルチゾール値は10%前後の測定のばらつき(3 μg/dL前後の血中コルチゾール値は,0.3 μg/dL程度のばらつき)が生じ得ることを考慮し,陽性所見の項目数も勘案して,総合的に診断を行う.
注6:早朝の血中ACTH 基礎値が10 pg/mL未満(2回以上の測定が望ましい)あるいはACTH 分泌刺激試験の低反応(基礎値の1.5倍未満)。なお,ACTH分泌不全症でも生物活性の低い大分子型ACTHが分泌されている場合には,測定キットによって必ずしも血中ACTHが低値とならない場合があり,注意を要する.
注7:21-24時の血中コルチゾール5 μg/dL以上
注8:健側の集積抑制がコルチゾール産生能と相関するため,定量的評価が望ましい.
注9:年齢および性別を考慮した基準値以下の場合,低値と判断する.
注10:手術施行に際しては,非機能性腫瘍である可能性も含めて十分な説明と同意を必要とする.

注釈が細かく追加され,1 mg DSTによるコルチゾールのカットオフ値が複数もうけられています.1 mg DSTの結果は診断に悩むポイントでもあるので大変参考になります.日本内分泌学会の臨床重要課題は学会員向けで非公開ですが,会員の先生方は一読されると,スクリーニング,診断,治療方針まで概観できて勉強になります.

糖尿病内科的コメント

診断基準,ガイドラインはもちろん頻繁に参照しますが,古い基準のまま,頭の中の更新が追いついていないこともあります.最新情報の収集という意味で,学会に赴き,最新の知見を共有しています.

加えて,診断基準やガイドラインを作っている先生方が演者に質問やコメントされるのを聴いていると,検査結果や診断基準をどのように解釈し,運用しているのかを追体験でき,とても参考になります.

プロフィール

やさしい糖尿病内科医
山村 聡(やまむら そう)

九州生まれ、九州育ち、九州大学医学部卒。大学病院で糖尿病・代謝・内分泌内科助教、市中病院勤務後退局。フリーランスを経て、銀座有楽町内科院長。

病気を治療する医師であると同時に、生涯の健康を保つパートナーでありたいと思っています。

趣味はお酒と血糖値。診察室で患者さんと喋ることも好きですが、気のおけない友人とお酒を飲むことも大好きです。自分の幸せも大切にしながら,社会が豊かになることに貢献できたら最高です.

いつも最後まで読んでいただきありがとうございます.

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