こんにちは。糖尿病内科医の山村聡(やまむらそう)です。
健康意識の高い日本人
テレビにもインターネットにもさまざま健康情報があふれています。ある食品が健康番組で紹介されるや、翌日は品切れとなり、ある病気が紹介されると、その病気を心配する方々が病院に列をなします。
それだけ「健康」への関心が強いわたしたちにも関わらず、なぜ高血圧、糖尿病を発症し毎月病院に通うことになるのでしょうか?
一人ひとり違う「体質」
同じくらいの年齢、同じくらいの背格好なのに、ある人は健康で、ある人は高血圧、ある人は糖尿病、ある人は癌になり、ある人は突然亡くなります。
医学的な統計データに基づけば、年齢や持病、ライフスタイルから確率的に病気のなりやすさをある程度推定することができます。しかし、人の体は不確実で、医学で100%説明できるものはありません。
説明のつかない病気、体調不良に陥ったとき、どうにかして自分を納得させる言葉を、わたしたち日本人はもっていました。それが「体質」です。
病気になりやすい体質。疲れやすい体質。体質だから仕方ない・・・。統計データのない時代から、ある種の慰めのように自らを納得させ、病気を達観する術を身につけてきたのでしょう。
「体質」に影響を及ぼすもの
病気の原因は「環境因子」と「遺伝的因子」に大別されます。前者は生まれてから現在までの自分の置かれた環境による原因、後者は生まれ持った原因です。しかし近年、生まれ持った遺伝的因子についても、最終的にその引き金を引くのは環境因子ではないかと言われるようになってきました。
日々、糖尿病患者さんと向き合っていて思うことは、食事の及ぼす体調、検査結果への影響です。ご両親が糖尿病で、遺伝的に糖尿病になりやすい「体質」と考えられる方でも、食生活を徹底的に改善し、糖尿病が完治するケースを何度も経験します。
育ってきた家庭環境、現在の職場環境、生活環境といった様々な「環境」が「体質」に影響を及ぼすとすれば、最も大きな環境因子は「食事」ではないでしょうか。
食事が「見える」時代にもかかわらず
食品には成分、カロリーが表示され、検索すればあらゆる食事のカロリーが計算できるようになりました。その結果、糖質や脂質、塩分の摂取量が当局から推奨され、数値に基づいた健康法やダイエット法が一般的になりました。
しかし、推奨された食事量、カロリー摂取量にも関わらず体調が良くならない、ぜんぜん痩せないといった声を非常によく耳にします。
人間の「体質」は、カロリーや糖質・脂質・タンパク質量といったわずかな指標では説明できないほど複雑で個別性が高いのです。様々な栄養素の、どの因子がどの程度その人に影響するのかは「人に依る」というのが現実です。
ある人に有効なダイエット法が、別の人に有効かどうかは、やってみないとわかりません。自分で試してみない限り、自分の体質に合うかどうかわからないのです。
体の中の「見える」もの
体の中で食事の影響を受けるものの1つに血糖値があります。食事中の炭水化物によって上昇し、臓器で消費されて低下します。他にも、中性脂肪、コレステロール、各種アミノ酸、ビタミンやミネラルがありますが、現時点で24時間連続して計測できるものは血糖値だけです。
2017年に発売されたフリースタイルリブレという器械によって24時間×14日間、一般の人でも血糖値をモニタリングできるようになりました。最大の「環境因子」と考えられる食事と、「体質」の一端をなす血糖値の関係がいつでも「見える」ようになったのは、人類史の中でも革新的なことかもしれません。
わたし自身、1年以上フリースタイルリブレを装着し、また、一般の方への普及を図る中で、日々の体調と血糖値とが密接に関係していることを実感しています。そして、自分に合った、食事スタイル、体調管理術を習得しつつあります。
まずは血糖値から「体質・体調」を探ってみては
先述の通り、体質は人によって異なり、自分に合った健康法、ライフスタイルを習得するには自分で試すしかありません。
これまでわたしたちは「体質」や「体調」を主観的、感覚的にしか捉えることができませんでした。なんとなく太りやすく、なんとなく疲れやすいけれど、健康診断では異常なしという方が非常に多い現状です。
「体質・体調」を見極めるバロメータとして血糖値、とくにその変動が有用かもしれません。まだまだデータの蓄積が乏しく、客観的な解析にはほど遠いですが、それでもいいのです。なぜなら、もともと個別性の高い「体質・体調」なので、血糖値をモニタリングすることで、そのモニタリングした人だけに有効な情報が手に入れば十分だからです。
こうした理由から、血糖値モニタリングが日常化し、誰しもが自分の体質にあったライフスタイルを構築する未来を描き、私個人として診療、講演、執筆に勤しんでいる次第です。